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労災

腰痛と労災認定

Last Updated on 2019年11月29日 by よも

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慢性的な腰痛も労災になることがある

ある会社の倉庫です。ひと段落したところですが、Aさんが腰をさすっています。後輩の一人が声をかけました。

「なんか腰、つらそうですね」
「うん、前から腰が悪いんだけど、この頃ちょっとひどくてね。朝、起き上がるのがつらいよ」
「最近重い荷物が多いですからね。病院に行った方がいいですよ」

Aさんは、自分でも病院に行った方がよいと思っていたところなので、その声に押されるように言いました。
「そうするかなあ、今日は少し早めに帰らせてもらうわ。悪いなあ」 「大丈夫ですよ。お大事に」

病院で

「どういう仕事をされているんですか」
「倉庫で荷物の出し入れをしています」
「重いんですか」
「普段はそれほどでもないのですが、時々重いのが入ってきます」
「重いものを持つのはしばらくやらない方がよいですね。悪化すると動けなくなりますよ」
「う~ん」

会社で上司に

「病院に行ったら重いものは持たない方がいいって」
「そんな、君の仕事で物を持てないってなったら致命的だぞ。君だけを特別扱いする訳にはいかないから」
「それどういう意味ですか。辞めろということですか」
「そこまでは言っていないだろう。みんなに迷惑を掛けない方法を考えろということだよ」
「それじゃ言いますが、これは労災じゃないですか。毎日重いものを扱っているからこうなったんじゃないですか。」

そこまで言うつもりはなかったのですが、上司の冷たい反応に反発してついエスカレートしてしまいました。

家に帰って奥さんに

「今日、コレコレシカジカで・・・」
「困ったわね。でも、仕事が原因だと私も思う。絶対労災よ」」
「会社は労災にしてくれそうもないよ。今までも腰を痛めた人は何人もいるけど、労災という話しは聞いたことがない」
「そうだ。近所に社会保険労務士事務所ができたじゃない。よく分からないけど、労災の手続きもしてくれるんじゃないかしら。明日にでも相談してきてよ」

社会保険労務士事務所で

「実は、コレコレシカジカで・・・」 「なるほど。腰痛が労災になるケースはあります。でも、ならない場合もあります。あなたの場合はどうなのか、もう少し質問させていだきますね」

「最初に痛くなった時の状況を教えてください」
「腰痛が始まったのはだいぶ前ですが、先週の金曜日に特に重い荷物が集中してだいぶ疲れたんですが、そのあとに痛み出して」

腰痛の労災を検討するときは、災害性の原因か、災害性の原因によらないものか、まずこの2つに分類します。簡単に言えば、急に痛くなったのか、徐々に痛くなったのかということです。Aさんの場合は、何か特別の原因で生じた腰痛ではなさそうなので、一般的には「災害性の原因によらない腰痛」に分類されます。

災害性の原因によらない腰痛は筋肉疲労か骨の変化かに分けて検討します。

【筋肉の疲労を原因とした腰痛が労災に認定される例】

① 約20キロ以上の重量物または重量の異なる物品を繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務に約3ヶ月以上従事した。港湾荷役など。

② 毎日数時間程度、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持して行う業務に約3ヶ月以上従事した。配電工の柱上業務等。

③ 長時間立ち上がることができず、同一の姿勢を継続して行う業務に約3ヶ月以上従事した。長距離トラックの運転業務など。

④ 腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務に約3ヶ月以上従事した。車両系建設用機械の運転業務など。

【骨の変化を原因とした腰痛が労災に認定される例】

① 約30キロ以上の重量物を、労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱う業務に約10年以上にわたって継続して従事した。

② 約20キロ以上の重量物を、労働時間の半分程度以上に及んで取り扱う業務に約10年以上にわたって継続して従事した。

Aさんの場合は、骨の変化の場合に示されたような重労働ではありません。どちらかといえば、筋肉の変化の場合に示された①に近いようです。

「Aさんは倉庫の仕事、何年くらいですか」
「もう15年くらいになりますね」
「病院ではレントゲンはとりましたよね。どう言われましたか」
「軟骨の幅が狭くなっているところがあるそうです。あといろいろ言っていましたがちょっと理解できなくて。ま、正常の人とは違っているらしいですね」

Aさんの場合は、どうやら骨に変化が生じているようです。筋肉疲労の認定例に示された作業内容でも、10年以上続けて骨に変化して腰痛が生じているのであれば労災に認定される可能性があります。ただし、筋肉疲労の①には「繰り返し中腰の姿勢で」という条件がついていました。Aさんの仕事がこれにあたるかどうかを判定されることになります。また、骨の変化があったとしても、それが加齢によるものかどうかも判定されます。

また、どういう状況で腰を痛めたによっても違ってきます。

「その先週の金曜日の作業ですが、その時に急な痛みはなかったのですか」
「そういえば、キクッてなったような気がします。それだと、労災になりますか」
「う~ん、そう簡単な話しではないのですが。」
「というと」
「いわゆるぎっくり腰は、日常的な動作の中でも生じるので、たまたま仕事中になったとしても、労災補償の対象にならないことになっているのです」
「ああ、そうなんですか」
「ただしですね、例外がありまして、突発的で急激な強い力が腰に異常に作用したときは別とかの例外がありまして・・・、特別に作業しにくい場所だったとか、一緒に荷物を持っていた同僚が手を離したとか、重いと思って力をこめて持ち上げたら空箱だったとか」
「いや、そういう状況ではなかったですね」
「状況によって労災の可能性が違ってくるのでお聞きしました」

また、慢性的な腰痛の場合は労災適用になっても条件が付くことがあります。

「前から腰が悪いとおっしゃいましたよね」
「やっぱり前から悪いと労災はだめですか」
「いや、まったくだめというわけでなくて、元々の腰痛がある人は、今回のAさんのように仕事で悪化した場合、労災が適用されても、完全になおるまで対象にならず、仕事で悪化した分を戻すまでの治療が労災の対象になる場合が一般的なのです」

腰痛の労災認定基準は示されていますが、具体的なケースを当てはめると、なかなか判断できないものです。

「で、どうなんでしょうか先生。私の場合は労災になりますか」

「う~ん。10年以上倉庫で荷物を扱ってきて、骨に変化が生じていて、今回の痛みは作業が原因だと明らかなわけですから、申請したほうがよいと思いますよ。ただ、腰痛の労災請求がかなり厳しいのは確かですから、認定されるかどうかは微妙なところですが」
「そうですか。でもとりあえず申請してみます」
「はい。それと、痛みが治まるまでは休んだ方がよいとお医者さんに言われましたよね。もし労災が適用にならなくても、会社を休まなければいけない場合は健康保険から傷病手当金がでます。傷病手当金のパンフレットをお渡ししますからよく読んでください」